#呟怖 『かまくら』

 

皆さんは『かまくら』をご存じだろうか? 

 え?神奈川県?其は『鎌倉市』(笑) 
 え?幕府?其は『鎌倉幕府』(笑) 

 そうではなくて雪国で作られる
雪で作った室の事である。 

 この『かまくら』意外と中は広くて暖かい。 

 この時期になると東北地方の方方で見掛ける、
正に東北の冬の風物詩である。 

 此のお話はそんな『かまくら』で起こった
聞くも恐ろしい惨劇。 

 随分と昔の話。 

 女子大生仲良し三人組が
卒業旅行で雪国へやって来た。 

 都会育ちのお嬢様で雪を生で見た事すらない。
 
近年は東京も雪を見られるようになったが、 
昔は中々東京で雪を見る事は珍しかった。 

 そんな時代の話。 

   

 故に雪を見る事が彼女達の第一の目的、 
第二の目的はやはりスキーによる初滑り、 
最後の目的はかまくらで一夜を過ごす事。 

 何せ雪の少ない都会育ちのお嬢様、 
雪の家で過ごす事に迚幻想的な雰囲気を抱き、 
脳内ではDisneyのsnowcastleが描かれていた。 

 早速電車とバスを乗り継ぎ現地へ到着。 
流石に長距離移動に疲れたのか
その日は食事も早々に床に入り深い眠りへ。 

 二日目はスキーヤーに変身。 
現地のコーチから丁寧にスキーを教わった。 

初滑りに女子大生達は大はしゃぎ、
転んだり雪合戦したり雪国を心行く迄満喫。 

 そしていよいよ三日目、
おまちかねのかまくら見学。 

思い描いたsnowcastleとは程遠い代物だったが 
連日の興奮でクールダウンを望む三人組には 
丁度よい骨休めの場所となった。 

 夜も更けて辺り一面白銀の世界である。 
雪は昼と夜とでは景色が一変する。 

 昼は白銀世界で迚幻想的な雰囲気を醸し出すが
夜になると闇の中に雪の白さが浮き上がり 
幻想的というより少し気味悪い感じを受ける。 

 そんな中一人が怪談話を始めようという事に、 
回りは怖いと止めたが彼女は勝手に語り始めた。
   
其は虐めを苦にして自殺した女子高生の幽霊が 
数年後女子大生となった加害者に復讐する話。

 何故か怪談を語る女の子以外の二人は
話を聞いて 青ざめ急に震え始め耳を塞いだ。 

   

 内一人が恐怖に耐えかねかまくらを飛び出し、
残された二人が探しに出るも何処にも姿なく、 
翌日、凍死体となって彼女は見つかった。 

 訪ねてきた刑事に事の子細を話して刑事からも 
死体の発見状況を教えられた。 

熊よけの罠にかかり穴に落ちそのまま気を失い 
翌朝罠を見に来た猟師が凍死した彼女を発見。

  旅行は中止遺された二人は帰宅する事になった

帰る間際彼女が落ちた穴へ供養をかねて行ってみようと怪談話を話した女の子が話を持ちかけた。

   

 余り気乗りはしなかったが
しつこく誘われ渋々現場へ。 

 其所は深い山の中にぽっかりと空いた
闇の入り口のような 迚薄気味悪い場所だった。 

怪談話を聞いていた女の子が恐ろしくなって 
振り返った途端話を話した女の子の顔が目前に  

 急に現れた顔に驚いて後退りした途端
足を滑らせ、 深い穴の中へ落ちてしまった。 

  女の子は必死にもがいて穴から這い上がろうと手を伸ばす然しその手をもう一人の女の子が
払いのけ穴へ蹴り落とす 

 『何するの!何考えてるの!』と叫ぶ女の子。 

   怪談話を話した女の子は表情一つ変えずじっと下を見る。 

 そして徐に口を開く。 

 『私の妹もそう言い貴女達の執拗な虐めに耐え何度やめてと言っても貴女達は苛めをやめようとせず、 遂に妹はその苛めに耐えかねて自殺した遺書には貴女達の事が克明に識るされていた 

 私は三年次編入で貴女達が進学した大学へ編入態と単位を落とし貴女達と同じ学年になった。 

 徐々に貴女達に近づきこの日が来るのを待った
長かった…実際は一年だったけど何年にも思えた

 然し妹の無念を晴らす為に私は耐えた。 
そして旅行の計画を経てた、貴女達の
殺人旅行計画を。 

 昨日話した怪談話にあの子
随分と怯えていたわよね? 

 其もその筈、あの話は妹が
貴女達から受けた苛めの話。 

 自分達が犯した罪を聞かされたんだもの、
怖いわよね。 

 だから敢えて聞かせてやったのよ。 

 熊よけの罠も私が用意した物よ、
そしてもう一人。 

 熊よけの罠を仕掛けた猟師がいたわよね? 
そう言うと彼女の後ろから猟師が顔を出した。 

 彼は妹の彼氏、そして婚約者だった。 
今回の私の計画を聞いて是非協力させてくれと 
私に力を貸してくれたわ。 

 更にもう一人、今回の事件を担当した刑事、 
いたわよね?覚えてる? 
そう言うともう一人年老いた刑事が出てきた。 
この人は刑事じゃない、私と妹の父親よ』 

其を聞いた穴に落ちた女の子は頭の中が真っ白になった。 友達はこの三人によって命を奪われ、
そして私もこの三人に今から殺されると。 

  狂ったように暴れた彼女は何とか
穴から這い上がろうと懸命にもがき
助けを叫び続けた。 

 然し雪深い山奥の吹雪の中で声はかき消され、 
遂に力尽きた彼女は疲れ果て気を失った。 

 そしてそのまま深い雪の中に埋もれて死亡した
 
死体が発見されたのは其から暫くして
雪解けを迎えた春の頃であったという。

その頃、東京では集団自殺のニュースが
世間を賑わせていた。

其は先の妹の復讐劇を見事に果たした三人、
妹の姉、その婚約者、そして父親であった。

三人はしっかりと手を紐で結び足に重石をつけ
海に飛び込みそのまま溺死したと思われる。

上がった亡骸は何故か迚穏やかであったという、
恐らくあの世で妹と再開を果たしたからだろう。

外は春の足音が聞こえる季節を迎え
春一番が吹いていたという。


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