呟怖〜母の日〜
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今日は母の日。
然し祝ってくれる筈の子は既にこの世には無い。
幼くして原因不明の高熱でこの世を去った。
あれからもう40年、
生きていたら今頃四十代。
孫と連れ立ち逢いに来てくれてたのかなと思う。
数年前に夫も他界しこの家には今は私一人きり。
夫と亡き子の思い出が詰まったこの家を出れず、周囲の反対を押しきり今も一人ここに住んでいる
ふとテーブルに目を落とし我が目を疑った。そこには一輪挿しに一本のカーネーションが…。
誰?まさか、泥棒?そんな馬鹿な事がある筈が…
しっかりと施錠され外から人が入る隙は無かった恐怖に体が震えその場にへたり込んでしまった。
ふと、子供の声が近くから聞こえる気がした、恐る恐る声のする方へ足を向けると子供部屋の方から聞こえてくる事が解った。
意を決して襖を開け、更にその光景に目を疑う、其処には亡くなった当時と変わらぬ息子の姿が…そしてその傍らには当時と同じ夫の姿があった。
二人は笑顔を此方へ向け手招きをしてくる、懐かしさと嬉しさに我を忘れ私は駆け寄った。
二人を思い切り抱きしめる、其処には確かに人肌の温もりが感じられ生きている実感が…。
何も言わず三人は互いを抱きしめ合い涙を流しそのまま時は流れて行った。
どれくらい経ったのだろう、気がつくと子供部屋で寝ていた自分に気づき慌てて起きると既に夜。
そうか、夢を見ていたのかと苦笑しつつ居間に、然し其処には一輪挿しにカーネーションが一輪、あれは夢なんかじゃない!あの人と子供が私に会いに来てくれてたんだと確信した。
とめど無く涙が溢れこんな素敵な母の日は初めてだと心から夫と息子に感謝した…。
明くる日、其処には満面の笑みを湛えたご婦人が息絶えて横たわっていたと言う。